*Memories *September 18-20 Japan North Alps 1***
9月18日木曜日。早朝5:20。時刻通り上高地に到着した夜行バスを下りると、曇りのち雨の天気予報を裏切り、地面はびっしょりと雨水で湿った状態。そして空を見上げれば、重く鈍い色をした雲が空を埋め尽くしています。
今回のメンバーはニュー・エボリューション・マウンテン・チームのSくんと二人。一雨降って上がった感じではありますが、またいつ降り出しても良いように、軽く雨対策もしつつ準備を進め、準備してきた登山届を提出し5:52に行動開始です。
明神までは雨もほぼ降らなかったものの、その後は雨が降ったり止んだり。出発から2時間50分が経過した8:10。(写真左下)のように、横尾入り口で試験的に行われている装備確認のステーションに着いた頃にはすっかり 雨模様に。
(右下の画像)は、涸沢方面と槍ヶ岳への道が分かれる横尾にて、軽く休憩中の怪しい傘を被る自分。そして(右上の画像)は、横尾山荘脇で休憩後、準備を進める黄色いレインジャケットのS君。
横尾を出発し、いよいよ登山道らしくなってきた頃には、雨が少しずつ本降りになって来ました。その後、雨足が一時弱まった槍沢ロッジで20分ほどの食事休憩。(左上の画像)は、出発から4時間23分経過した10:15。ハバ平のテント場に向かう自分の後ろ姿。この頃には雨はしっかりした本降りに。自分のザックは保水しない素材のため面倒なザックカバーはせず、大きな30Lの防水スタッフサックをインナーとして内部に常に装備する事で防水対策をしています。(万が一の場合も想定し、さらに小さなドライバッグやジプロックで用途別に小分けにしてあります)
ちょうどこのハバ平のタイミングが、このまま登るか撤退かの最終判断箇所。今日の目的地ヒュッテ大槍まであと半分くらいなので時間にして4時間少々でしょうか。だいぶゴアテックス・アウターの下の衣類も汗+雨で湿ってはきましたが、濡れても保温できる装備もまだ準備があるので、今日はこのまま目的地に向かいます。
この時は、このあと本格的な豪雨から嵐になることなど知る由も無しでした。
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ハバ平の手前から本降りになった雨は、時折激しい豪雨になってきました。強まった雨は登山道を流れ徐々に道自体が沢筋のようになってきて、防水の登山靴も、もはやゴアテックスの限界を超え靴の内部へ水が染み込み始めました。
(右上の画像)は12:00頃。しんどい登りが続くグリーンバンドでは、段差を滝のように流れる雨。もはや衣類もびしょ濡れだし、靴の中も水が溜まって歩くたびにビシャビシャ音が鳴っています。ただし、こうして濡れてしまっても、二人ともソックス、インナーグローブと下着はウールなので、濡れてもしっかりと暖かさがあり、低体温症の予防になります。
そして雲が近くになってくる頃には遂に雷も響き始め(稲光と音の感覚があるので、落雷はないと判断)、風も出てきて最早ストーム・コンディションに。。。涙 心で「雨に唄えば」?など歌いつつ(左下の画像)S君と共に、もうひと頑張り。この日はちょうどあと1組、槍を目指すパーティーがいたので、お互い励ましつつ元気を分け合い登ったのも良かったですね。
ちょうど道が開け槍ヶ岳方面とヒュッテ大槍への分岐に来た頃、今度は風が強まり、おそらく体感気温は0度くらいに。小屋まであと1時間弱でしょうか。流石に上半身が冷えて身体が震え出したので、ここでゴアテックスの中に、濡れた衣類の上ですが化繊のダウンベストを着用する判断をし、素早く装着。羽毛のダウンは濡れれば保温力0ですが、化繊ダウンは濡れてもしっかり保温してくれます。結果、身体も温くなり、あとは腕や腿が冷えないよう疲れた体に鞭を打ち、一気にペースを上げることで体を温め、小屋までの急騰を汗をかきながら登りました。ここまでずぶ濡れになりながらの長い時間の山行は、初めてでしたが、緊急時に役立つ装備を取り入れ、実際に状況に合わせて使用することで、それがいかに重要かを実感し、また今後につながる良い経験ができたと思います。
遂に13:50。出発から7時間58分で無事ヒュッテ大槍に辿り着きました。宿では今日は不在だった支配人の井村さんが自分たちが無事か心配して電話してきてくれたそう。(装備のおかげもあり、意外に元気です。)あまりにも何もかもがびしょ濡れでどうしようもなく、しばらく入り口に佇んでいましたが、どうにもならない為、無理を言ってそのまま乾燥し行き着替えさせて頂きました。
濡れた装備はそのまま乾燥室に干し、宿泊の手続きを済ませると、温かい衣類といつも素敵な小屋、そして親切なスタッフに感謝しつつ、美味しい生ビールで乾杯しました。
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*Memories *September 18-20 Japan North Alps 3***
9月19日、金曜日。今日は槍から大キレットを越えて北穂高岳までコースタイムで8時間35分の行程なので、暗い中から行動開始して急ぐ必要はなし。というわけで、朝食を済ませてから小屋の前に出て、5:46(左上の画像)のように美しい日の出を眺め、力強い太陽に今日一日頑張る力を分けてもらいます。しばらく昇る太陽を眺めた後、振り返れば(右下の画像)のように綺麗に朝焼けした槍ヶ岳。昨日が記憶に残るハードなコンディションだったこともあり、今日の朝の景色はいつもの何倍も美しく感じてしまいます。
準備を済ませると小屋にお礼を言って一礼し、6:13に行動開始です。1時間弱、槍ヶ岳を眺めながら進み、槍ヶ岳直下の槍ヶ岳山荘にザックをデポして山頂を目指します。(左下の画像)は、槍ヶ岳山頂への登りの一部。クライミングをしている自分にとっては、特別難しくはないのですが、一般のハイキングの方にはスリルある登りですね。もちろん落ちれば大変なことになるので、3点支持の基本に忠実に進みます。7:15に上層の雲と雲海に挟まれた山頂(3180m)で記念撮影。この朝は冷え込んだので、寒そうな顔してますね。まだ先があるので、一通り景色を眺めたところで、山頂を後にします。
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*Memories *September 18-20 Japan North Alps 4***
槍ヶ岳から下るS君にモデルになってもらいましょう。基本的には登りと下りはそれぞれ違うルートになっています。それでも休日など人が多い時期はは長い列となって渋滞するようですが、この日はまだ人もまばらです。おそらく昨日の雨では予定通り登ってこられた人はわずかだったこともあるのでしょう。
S君、しっかり両手でそれぞれ鎖や岩に支点を取り、丁寧に3点支持で降りているのが分かりますね。(右上の画像)なども油断して右手だけ鎖を持って、左手はフリーで下ることもできそうですが、その状態で万が一足元の石が浮石だったら、バランスを崩した際、確実なホールドが鎖だけになり振り落とされたりするでしょう。3点をしっかりと持っていれば、どれか1点がもし崩れても2点で確保できるので、落ちることなく安全に対処できるんです。「三カ所に手足を添えていれば」ではなく、常に「確実に三箇所をしっかりと押さえていれば」、安心して一点を動かせます、山で自分の命を守るためにとても大切な基本の一つですね。
この後すれ違いで昨日の豪雨を一緒に登ったパーティーの3人と遭遇。「昨日のことなのにもう懐かしい」と半ば感動のような再会で、また会うことがないと分かっていても記念写真を撮ってくれました。きっとみんなの思い出に残る一枚になってくれるのでしょう。自分もあの雨の中で何度も合わせた彼らの顔を忘れることはないと思います。